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ぶたりしあす

ぶたりしあす

父娘の絆。

幸せな父親と娘が居た。
レストランの帰り道に、ヤクザに娘が狙われる。
愛する娘を守ろうとするが為に、俊夫はヤクザを殺してしまう。
家に帰り、警察に自首しに行く決心をする俊夫。
警察署の手前で、娘の君子に留守番電話を残す。
”いつか、必ず迎えに行くからな”


10年の月日が経った。
君子はあの事件の後、児童施設に送られ、両親が居ない慎ましい生活を過ごしていた。
刑務所から、ようやく出てこられた俊夫は、娘の居る施設に行く。
楽しそうに子供達と遊んでいる娘を見て、俊夫はとても嬉しくなった。
施設の院長先生の元に、娘を戻しにきた事を告げる。
院長先生は、喜んで娘さんを返してあげたい事を告げる。と、同時に、刑務所あがりの仕事の無い俊夫と二人でどの様に生活していくのか、10年も置き去りにした君子に今更顔を出すのか、
お金持ちの養子縁組をしたいと申し出ている、斉藤夫妻の事を告げた。

俊夫は悩んだ。
もしかしたら、娘の為にはもう一生会わない方がいいのかもしれない。
貧乏な自分と生活したら、余計彼女は惨めな哀しい生活を過ごさなければならないかもしれない。
養子縁組の話は、君子に取ってはこの上ないいい話に思えてきた。
娘が将来一生不自由の無い暮らしを送らせたい。


そう、考えた俊夫は、娘とは会わない決心をする。

・・・が、理解はしていても、頭の中では大好きな可愛い娘の事が。
”斉藤家に養子に行く前にもう一度だけ、彼女の姿を見に行こう”

そう、思った俊夫は、他人のフリを装い、バス停で待っている君子に話しかける。

斉藤さんの知り合いと言う事にして、養子縁組が決まって良かったね、という事、
これから、幸せになれるね、という事など、思ってる事と正反対の言葉が次々と出てしまう。

君子は言う
”斉藤さんの知り合いなんて嘘!どうして、お父さん、お父さんだっ、って言ってくれないの。私、ずっと、
待ってたんだよ、お父さんの事。あの日の留守番電話の事、今でも忘れてないんだよ。”

養子縁組の話を喜んでいる俊夫を見て、君子は公衆電話から、電話をかける。
”わたし、やっと、決心がつきました。これから、一生お世話になります。”


これでいいんだと、自分に言い聞かせながらも、途方に暮れながら俊夫は家に帰った。
頭では、これが一番の決断だったんだ、と思っていても、出てくるのは瞳からの涙だけ。
大好きな娘にもう一生会えないであろう。刑務所の苦労なんて、彼女に会えない寂しさや切なさに比べたら、
ほんの少しだっただろう。
自分が決めた決断だが、苦しくて、やり切れなくて。涙は枯れる、というが、そんなのは嘘に覚えた。
流れても流れても、それでも、落ちてくる哀しい感情。


留守番電話が一件ある。
もう、俊夫にとってはどうでもいい事だが、”聞く”のボタンを押す。
”わたし、やっと、決心がつきました。これから、一生お世話になります”
なんと、公衆電話で君子が電話していたのは、養子縁組の斉藤家ではなく、父親の私の家だったのだ。

ふと、玄関を見ると、スーツケースを持った愛しいと言う言葉だけでは足りない位、大切な娘、君子の姿があった。

流していた涙の冷たさが暖かさを帯びた気がした。



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